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本記事は、自社のセキュリティ強化やゼロトラスト移行を検討している情シス担当者向けに、Microsoft Entra IDの基本と最新動向を解説します。
Microsoft Entra ID(エントラ アイディー)とは、企業のユーザー管理を強化するために設計された、先進的なユーザーIDおよびアクセス管理サービスです。クラウド環境やハイブリッド環境における安全なアクセスを実現し、ユーザー管理やセキュリティポリシーの一元化を可能にします。「Microsoft Entra ID 読み方」や「Entra 読み方」で検索されることも多いですが、正しくは「エントラ アイディー」と読みます。
この記事では、旧名称からの変更背景や最新のMFA必須化動向、オンプレミスActive Directoryとの違い、具体的な導入メリットについて詳しく解説します。

Microsoft Entra IDとは
本記事のポイント
旧名称「Azure Active Directory (Azure AD)」から名称変更されたクラウド型ID管理サービス
2024年10月以降、Azure管理ポータル等でのMFA(多要素認証)が段階的に必須化
ZTNAを統合した上位スイートの導入で、131%のROI(投資対効果)が報告されている
オンプレミスADとの混同やバックアップ運用の欠如が代表的な失敗パターン
Microsoft Entra IDは、クラウド環境やハイブリッド環境における安全なアクセスを実現する、先進的なIDおよびアクセス管理サービスです。
「Microsoft Entra IDとは」と疑問に持つ方も多いですが、元々は「Azure Active Directory(Azure AD)」として提供されていたサービスが名称変更されたものです。なお、読み方についても「どう読む?」と検索されることがありますが、正しくは「エントラ アイディー」と読みます。名称変更の背景には、単なるディレクトリ管理を超え、AI時代のゼロトラストアーキテクチャを実現する包括的なセキュリティ基盤としての役割が強まったことがあります。多様なクラウドサービスへの安全な接続を担保し、すべてのアクセスを検証するゼロトラストの起点として機能します。
Microsoft Entra IDの機能
MFAや条件付きアクセスといった基本機能に加え、AI時代に向けたゼロトラスト機能の拡張が進んでいます。
組織内のユーザー管理機能をはじめ、企業のセキュリティと利便性を両立するための多彩な機能を提供します。
シングルサインオン(SSO)機能
ユーザーが一度のログインで複数のアプリケーションにシームレスにアクセスできる仕組みです。複数のパスワードを記憶・管理する手間がなくなり、業務の生産性が向上します。同時に、管理者にとってもパスワードリセットの問い合わせ対応を大幅に削減できるメリットがあります。
条件付きアクセス
「誰が」「どこから」「どのデバイスで」「何にアクセスするか」という条件に基づいて、アクセスを動的に制御する機能です。社外のネットワークや管理外のデバイスからのアクセスに対してのみ追加認証を要求するなど、柔軟かつ強力なセキュリティポリシーを適用できます。
多要素認証(MFA)
パスワード(知識情報)に加えて、スマートフォンアプリやFIDO2パスキー(所持・生体情報)などを用いて認証を強化する機能です。Microsoft社のテレメトリ調査(2024年時点)によれば、MFAを有効にするだけで、パスワードスプレー攻撃やフィッシングといったアカウント侵害攻撃の99.2%以上をブロックできると報告されています。
Microsoft Entra ID プロテクションとは何か
「Microsoft Entra ID プロテクションとは何か」という疑問もよく見られますが、これは機械学習を用いてサインイン時のリスク(漏洩した資格情報の使用や匿名IPからのアクセスなど)をリアルタイムで検出し、自動的にブロックまたはパスワード変更を要求する高度なセキュリティ機能です。Entra ID P2ライセンスなどで利用可能です。
【最新動向】AI向け「Entra Agent ID」とバックアップ機能
生成AIや自律型AIエージェントの業務導入が進む中、AIがどの権限でデータにアクセスしているかを統制するための「Microsoft Entra Agent ID」が新たに提供されています。また、誤操作やランサムウェアなどの破壊的サイバー攻撃に備えるためのテナントレベルのバックアップ・リカバリ機能(プレビュー)も実装されており、運用面の機能拡充が続いています。
▲ Microsoft Entra IDによるゼロトラストアクセス制御の全体像
Microsoft Entra IDの導入メリット
セキュリティの向上だけでなく、IT運用コストの大幅な削減とROI(投資対効果)の最大化が期待できます。
企業がEntra IDを導入することで、単なる管理ツールの導入にとどまらない具体的なビジネス価値を創出できます。
効率的なユーザー管理と自動化
ユーザーのプロビジョニング(アカウント作成や権限付与)が自動化され、入退社時のID処理にかかる時間が劇的に短縮されます。これにより、IT部門の負担が軽減され、ヒューマンエラーによる設定漏れや退職者の「ゴーストアカウント」の放置を防ぐことができます。
コストの最適化と高いROI
ライセンス管理やヘルプデスク業務の効率化により、運用コストの大幅な削減が可能です。Forrester Consulting社が実施した「Total Economic Impact™ (TEI)」の調査(2025年)によると、「Microsoft Entra Suite」を導入した組織は3年間で131%のROI(投資回収期間6ヶ月未満)を達成しました。また、セルフサービスパスワードリセット機能などにより、パスワード関連のヘルプデスクチケットが90%減少するという定量的なコストダウンが実証されています。
クラウドへのスムーズな移行
オンプレミスの既存システムと連携させるハイブリッド構成が容易です。段階的なクラウド移行が可能となるため、業務を止めることなく次世代のITインフラへとシフトできます。
日本企業における導入事例と成果
日本国内でも、製造業やIT企業など多くの企業がEntra IDを活用し、数億円規模のコスト削減やゼロトラスト基盤の確立に成功しています。
以下に、具体的な導入事例を3社紹介します。
中外製薬株式会社:デバイス管理のクラウド移行
業種・規模:医薬品製造業(従業員約7,600名)
導入時期:2024年
課題:約19,000台のデバイスをオンプレミス中心で管理しており、ハイブリッドワーク下での運用負荷とライセンス費用の肥大化が深刻化していた。
施策:デバイス管理をMicrosoft IntuneとMicrosoft Entra IDへ集約し、クラウドベースのモダンマネジメントへ全面移行。
成果:分散していた管理システムの一元化により、ライセンス費用やサーバー維持費を中心に年間約1億円のコスト削減を達成。
日本精工株式会社(NSK):顧客IDの統合とDX推進
業種・規模:機械製造業(グローバル展開)
導入時期:2024年
課題:顧客向けサービスサイトごとにIDがサイロ化し、ユーザーの利便性低下と管理負担の増加を招いていた。
施策:顧客向けID基盤として、アジア圏の企業として初めて「Microsoft Entra External ID」を導入。
成果:バラバラだった顧客IDを共通IDに統合しUXを改善。社内向けと同じモダンなUIで一元管理できるようになり、強固なセキュリティと攻めのDX基盤を確立した。
日本電気株式会社(NEC):社内アプリのSSO連携
業種・規模:電機メーカー(数万人規模)
課題:社内向けスマートフォンアプリを自社のID基盤とセキュアに連携させるためのスクラッチ開発に、高額なコストと長期間の工数がかかっていた。
施策:アプリ開発プラットフォームのSAML認証基盤を利用し、Microsoft Entra IDとのシングルサインオン(SSO)連携を実現。
成果:従来のスクラッチ開発と比較して導入コストを最大80%削減。退職者のアカウント停止も即座に反映される運用体制を構築した。
導入時の注意点とよくある失敗パターン
MFA必須化への対応遅れや、オンプレミスADとの混同が重大なセキュリティトラブルや業務停止を引き起こす可能性があります。
Entra IDは強力なツールですが、運用方法を誤るとリスクを伴います。特に情シス部門が注意すべき失敗パターンを解説します。
MFA必須化スケジュールへの対応漏れ
Microsoftはセキュリティ強化のため、Azure管理操作等におけるMFA必須化を段階的に進めています。2024年10月にAzureポータルやEntra管理センターへのサインインで必須化(フェーズ1)され、2025年秋にかけてAzure CLIやIaC等のツールに対する必須化(フェーズ2)が順次適用されます。これを把握せず、「ある日突然管理画面にログインできなくなった」「自動化スクリプトがエラー(50089等)で停止した」というトラブルが頻発しています。事前の設定確認とスケジュール把握が不可欠です。
オンプレミスADとの混同とバックアップの欠如
Microsoft Entra IDとオンプレミスのActive Directoryは、名前は似ていますがアーキテクチャが全く異なります。よくある失敗として、オンプレミスADと同じ感覚でグループやポリシーを誤って削除してしまい、元に戻せなくなるケースです。Entra IDの標準機能では論理削除(30日間)のみの対応となるため、完全な復旧にはプレビュー段階のバックアップ機能やサードパーティ製ツールの併用など、クラウドに特化した運用設計が求められます。
Microsoft Entra IDとActive Directoryの違い
オンプレミス特化のActive Directoryと、クラウド前提のEntra IDは、認証プロトコルやスケーラビリティが根本的に異なります。
両者は目的が異なるため、自社の環境に合わせて適切なソリューションを選択、あるいは併用(ハイブリッドAD)することが重要です。主な違いは以下の通りです。
比較項目 | Microsoft Entra ID | Active Directory (オンプレミス) |
|---|---|---|
主な用途 | クラウドアプリ・SaaSへのアクセス管理、リモートワーク対応 | 社内ネットワーク上のPC、サーバー、プリンターの管理 |
運用形態 | クラウドベース(SaaS型) | オンプレミス(自社サーバー)またはIaaS上 |
認証プロトコル | SAML、OAuth 2.0、OpenID Connect | Kerberos、NTLM、LDAP |
スケーラビリティ | 必要に応じて自動かつ容易にスケール対応可能 | サーバーの追加構築やハードウェアの増強が必要 |
デバイス管理 | Microsoft Intune等のMDMと連携したモダンマネジメント | グループポリシー(GPO)を用いた詳細な端末制御 |
多くの中堅・大企業では、既存のActive DirectoryとMicrosoft Entra IDを「Microsoft Entra Connect」を用いて同期し、両者の強みを活かすハイブリッド環境を構築しています。
▲ Microsoft Entra IDとオンプレミスActive Directoryの違い
よくある質問
Q:MFA必須化のスケジュールはどのようになっていますか?
A:2024年10月にAzureポータル等の管理画面へのサインインでMFAが必須化(フェーズ1)されました。その後、2025年2月にはMicrosoft 365管理センター、2025年秋にはAzure CLI等のツール類にも順次適用(フェーズ2)されます。管理者は早期に対応を完了させる必要があります。
Q:ライセンスプランの選び方の基準を教えてください。
A:基本的なSSOやMFA機能は無料の「Free」プラン(Microsoft 365等に付帯)で利用可能です。より高度なセキュリティである「条件付きアクセス」を利用するには「Entra ID P1」が、リスクベースの認証制御(Entra ID プロテクション)を利用するには「Entra ID P2」や「Entra Suite」が必要です。自社のゼロトラスト要件に合わせて選択してください。
Q:既存のオンプレミスActive Directoryと併用することはできますか?
A:はい、可能です。「Microsoft Entra Connect」と呼ばれる同期ツールを使用することで、オンプレミスADのユーザー情報やパスワードハッシュをEntra IDに同期できます。これにより、従業員は同じIDとパスワードでオンプレミスとクラウドの両方のリソースにアクセスできるようになります。
▲ 要件から選ぶMicrosoft Entra IDライセンスプラン
まとめ
Microsoft Entra IDは、クラウド移行とゼロトラストセキュリティの中核を担う不可欠なインフラです。単にAzure ADから名前が変わっただけでなく、AIエージェントのID管理やZTNA統合など、実務のニーズに合わせて進化を続けています。次の一歩として、まずは2024年〜2025年にかけて実施されるMFA必須化のスケジュールを確認し、自社テナントのセキュリティの既定値や条件付きアクセスの設定状況を見直すことから始めてみましょう。
本記事の内容に誤り等がございましたら、こちらからご連絡ください。
監修
Admina Team
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